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サラとベス〜夢の中のお話〜 Vol.1

長いので、2部制!


この夢の前に、結構猛々しい夢を見て起き、

まいったな〜と天に苦笑いをしながら、

再度、二度寝した時に見た夢です。


もしかしたら前世かもしれないし、

単純にお話してくれただけかもしれない…。

心温まるお話なので、ご覧ください。


夢の中では名前が出てこなかったので、便宜上、名をつけました。


ーーーーー


サラとベスは10歳いかない位の女の子。

小さいので7〜8歳くらいにしか見えません。

国境近く、下水の流れる橋の下で、

寒さと飢えをしのぎながら、体を寄せ合っていました。


「体が少し臭くたって平気だもん!

下水のそばに住んでるから、誰にもわからない!

ワハハ!」


コロコロ笑い合う少女たちは、その反面

手足からは血が滲み出て、

決していい状態ではありませんでした。

橋のそばを行き交う人々に物乞いをし、

道端に落ちた小銭を拾っては、

わずかばかりに得たお金でパンを買い、分け合います。


パン屋の女主人は言います。

「可哀想に。あんなに細い体じゃ、

今年の冬はもう越せないね。」


本当は少女たちが差し出す小銭では、パンを買うことができません。

それでも売れ残りの固いパンでも渡し続けるのは、

同年齢の娘の母親だからかも知れません。


サラとベスは、他の孤児のように盗みをしません。

以前、大男に捕まってぶたれた子を見て、

それが飢えよりも恐ろしかったのと、

近くのパン屋の女主人ならお金は足りていなくても、

パンを恵んでくれるのを知っているからです。

私たちは、なんとか生きていける。

大人になったらもっと稼いで、

ふたりで大きな家に住もうと毎晩のように話していました。


一段と暗く、寒い夜のこと。


いつもと違う気配に目を覚ますと、

すぐそばで数人の男たちが息を潜め、橋の上を警戒しながら隠れています。

サラはベスを起こすと、

男たちの関心をひかないよう、少し離れたところに移動し、

じっとその様子を見つめていました。

やがて男たちは安心したのか、

少女たちがいた橋の下の一番温かい窪みで小さい火を起こし、

暖をとり始めました。

こそこそと何やら話し合っているのが伺えます。


ベスは思わず

「すご〜い!いいなあ。あったかそうだな〜。」

と小さな声を漏らしました。


サラはそれを嗜めるように言いました。

「呑気なこと言ってるんじゃないよ。

あんなやつらに捕まったら大変だよ!

前の子みたいに思いっきりぶたれるに違いないよ。」


「サラはいつもそうやって人を疑う。

そんなことじゃ白馬の王子様が迎えにきても

仏頂面して追い返しちゃうよ。

私はいつか王子様と幸せになるん…むにゃむにゃ」


ちぇっ。

いつか話してあげたお伽話を信じてやがる。

大きなお屋敷にふたりで住むんじゃなかったのかよ。

まだ見ぬ王子様にやきもちを焼き、ベスの気の抜けた寝顔を見ながら

サラも横になりました。


「それにしても、あの男たちは何から逃げていたんだろう…。」

夜の静けさが不安と好奇心を乗り越えて、

眠るふたりを優しく包んでいきました。


翌朝。


サラとベスは驚いて飛び起きました。

老若男女がひしめくように橋を埋め、大騒ぎをしています。

ドンドンと足を踏み鳴らし、旗をひらめかせ、

何かを一斉に叫んでいますが、

外国語のようで、よくわかりません。


「大変だ!なんか変だよ。

ベス、ここから離れよう!」


まだ眠気まなこのベスの手を引き、橋の下から離れ、

少し小高いところの建物の影に隠れました。

そこから見ると、奥の方で群衆と警察が

ぶつかっているのが見えました。

あちこちから煙のようなものも上がり始めました。


「サラ、どうしよう。

どんどん人が増えてるよ。怖いよ。」


少女たちがいた橋の下に警官たちが走り込んできて

やがて馬に乗った騎兵隊がやって来るのも見えました。


これは、いよいよとんでもないことになった…。


その時です。


隠れていた建物の向こうから、

坂を降りてくる隊列がありました。

坂の上にある寄宿舎の生徒たちです。

少女たちよりも一回り大きい上級生のように見えましたが、

サラはこれはチャンスだと悟り、ゴミ箱から制服のケープによく似た

緑色と茶色の布切れを引っ張り出し、

ベスに分け与えて、それっぽく着こなしました。

そして近づいてきた隊列に向かって、大きな声で言いました。


「上級生たち!この先は危ないです!

学校に戻りましょう。私たちが先導します!」


学生たちは、確かに橋の下に待機する騎兵隊を見て驚き、

サラとベスの先導についていくことにしました。

先頭の生徒たちがボソッと呟きました。

「なんか浮浪者の匂いしない?」

「本当!いやね!どこかにいるのかしら。」

サラとベスはさらにスピードを上げて、

早足で学校の門をくぐって、隊列から離れて行きました。


「ぷはーっ!」

校舎の陰に隠れるや否や、

ベスが布切れのケープから顔を出し、大きく息をしました。


「だって臭い臭い言うからさ〜!

息まで止めちゃったよ!」

「本当だね!うちらそんなに臭かったんだね!

ワハハ!」


「ええ、とんでもない匂いです。」


振り返ると、鼻をつまんだ、ブロンドの三つ編みおさげに

メガネをかけた生徒が立っていました。


サラはベスを庇いながら小声で言いました。

「あの、街が…街が大変なんです。

うちらの住んでいた橋は馬に乗った兵隊さんも来て…

とても危ないので、つい…。」


「知っています。」

おさげさんは厳しい口調で言いました。


ああ、もうだめだ。

つまみ出されればいい方で、きっとぶたれるに違いない。

私のせいだ…。

ギュッと目をつぶり、

何か言おうとしましたが言葉が出ません。


すると、おさげさんが言いました。

「夕方、日が暮れるまで、ここで隠れていて。

大きな声で話したりしちゃダメよ。

できる?」


コク、コクと無言でうなづくと、

おさげさんは横目で見ながら、引き返していきました。

へなへなと力が抜け、

サラとベスは壁にぴたっとくっ付いて座り込みました。

涙が溢れてきました。


「サラ、大丈夫だよ。泣かないで。

きっとあの人、何か食べ物でも持ってきてくれるんだよ。

それまで待ってよう?」


どうしてそんなに楽観的になれるのか。

それでも、今はベスの励ましてくれる声が救いに感じました。

夕陽が傾いて、夜の帳が下り始め、

どこからか美味しそうな匂いも漂ってきました。


いつものパン屋さんは大丈夫だったろうか。

そういえば、今日は何も食べていなかったな…。

明日は橋の下に帰れるだろうか。

うとうとし始めた頃、囁き声が聞こえてきました。


「あなたたち! 早くこっちに来なさい!」


あのメガネのおさげさんです。


「ほら!来てくれた!」

ベスは急に元気よく、おさげさんの方へ駆けていきます。

慌ててサラもそれに続きます。


「しっ!静かに!

今はみんな食堂で夕食の時間なの。

その間にお湯を浴びなさい。」


素早くサラとベスの着ているものを脱がし

桶についた栓をひねりました。

が、そこはあまり使われていないようで、

一向にお湯が出ません。


おさげさんはポケットから

布に包んだ薄い石鹸を出し、

「火がないんだわ。冷たい水で申し訳ないけど、

まずはその匂いをどうにかしないと…」

そう言って、サラとベスに水をかけ始めました。


凍えて死んでしまうかと思いましたが、

おさげさんの必死さもわかったので

一生懸命石鹸で髪や体を洗い、

ゴワゴワした布で拭き取りました。

布が真っ黒に汚れてしまい、恥ずかしく、

申し訳ない気持ちになりました。


おさげさんは、次に髪の毛に櫛を通そうとするのですが

絡まって団子のような髪の毛は、どうにもなりません。

そこで、さっと奥に何かを取りにいってきました。


「あなたたち、後悔しないわよね。」

ハサミを手に、

髪の毛をバサリバサリと切り落としていきました。

落ちていく髪の毛は、

おさげさんのような綺麗なブロンドの髪ではなく、

野良猫のしっぽのようでした。


冷たい水と羞恥心で真っ赤になった二人は

学生のお古だと渡された服と穴の空いた靴に着替え、

厨房の裏へ回されました。


「ここで待ってて。」

おさげさんは息を切らしながら、

厨房に消えていきました。


ベスが小さい声で震えながら言いました。

「やっぱり、いい人だったね。

新しい靴、もらっちゃったね!」


青くガサガサした唇で、嬉しそうにささやくベス。

自慢げにこちらを見ているのが

なんだかおかしくて、切なくて…。


しばらくすると両手にサンドイッチを抱えて、

おさげさんが走ってきました。

目を輝かせ、すぐに食べようとするベスを制し、

「暖かいところに行ってから、食べましょう。」

そう言って、小さい暖炉のついた部屋に連れてきました。


「ここは掃除のおじさんの部屋なんだけど…。

お酒と賭博が好きな人で、

夜はこうやって抜け出ることが多いの。

学長が知ったら、即クビよ。

もし見つかったら、そう言って脅してやるわ。」


鼻息も荒く、サラとベスを

あたたかい毛布でくるんであげました。

「ところであなたたち、いくつなの?」


サンドイッチを頬張りながら、

サラとベスは顔を見合わせます。

「わからない…。」


目を丸くしたおさげさんが

わからない?!と驚きます。


「私は6つの時におばあちゃんの家に預けられたけど、

そのおばあちゃんが死んで。

色々と移動したけど、誰もいなくなって…。

そしたら橋の下に寝ていたベスを見つけて、

それからずっと一緒。」

ベスはニコニコしながら、うなずきました。


「ベスはあまり何も覚えていない。

名前も私が決めた。

昔飼ってた猫のベスに似てたから。」


「そうなの…。」

おさげさんが眉をしかめて、うつむきました。

「あんたたち、今日からあたしの遠〜い親戚だから。」


「へ?」


「遠〜い親戚のお姉さんってことにして。」

「??」

「行くわよ。」

「ど、どこに?」


そのまま、おさげさんはふたりを促し、

掃除員の部屋を後にしました。


Vol.2へ続く

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