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サラとベス〜夢の中のお話〜 Vol.2


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長い石造りの廊下を通って、

おさげさんはふたりを自分の部屋に連れてきました。


そこには他にふたり学生がいて

読書をしたりして、ゆっくりと過ごしていました。

サラとベスにそれぞれ紹介して、おさげさんは続けました。


「サラとベスは、私の遠縁の親戚の子なの。

旅の途中なんだけど、訳あって週末…

もしかしたらもう少し長く、ここに置かせてもらうわ。」


するとひとりのルームメイトが優しそうに

「今、街は混乱しているし、

先生方も授業どころではないようだから。

ゆっくりしていってね。

ところで荷物はどこにあるの?」


おさげさんは空いているベッドに、ふたりを押し込みながら

慌てて答えました。

「ああ! 街で盗られたみたいよ!」


学生は驚いて、可哀想に思い、持っていたお菓子や

ぬいぐるみ、上掛けなどをくれました。


てんこ盛りになったベッドの上で、

橋の下にいた時のように、お互い身を寄せ合って

でも確実にもっと暖かい、安心した夜を過ごしました。


次の日の朝。


起きた頃にはもうとっくに昼近くになっており、

おさげさんが呆れたような声で起こしにきました。

「もうランチの時間よ、起きなさい!」


いつの間にか用意してくれた、学生のお古の制服に着替え、

食堂でお腹いっぱいスープを食べ、

図書館でたくさんの本を見ました。

しかし文字が読めないので、ただただ綺麗な表紙に見惚れて

指で触ってその肌触りを楽しんでいました。


「今日はやっぱり街の混乱のせいで、授業はほぼなし。

明日も土曜日でお休みだから、部屋でゆっくりしましょう。

学校長には言うつもりないから、あまり目だたないでね。

彼女、馬車が走らなくて、学校に来れないらしいのよ。

ラッキーだったわ。

あなたたちのこと、本当は相談したいのだけど、

わかってくれるような人じゃないの。

今どうするか考えてるから、心配しないでね。」


おさげさんはサラとベスに文字と

名前の書き方を教えてくれました。

何回も練習しますが、まだよくペンが扱えません。

ルームメイトとお茶とお菓子の時間も楽しみ

短い物語をいくつか読んでもらいました。

今度は暖かい湯で体を洗い、ボサボサだった髪も

なんとか櫛でとかせるようになりました。

遠い記憶のお母さんを思い出すような時間でした。


あっという間に日曜の夕方になり、

ルームメイトが思い出したように言いました。


「さっき食堂のおばさんの会話を聞いたのだけど

街なかの混乱はだいぶおさまって、坂の下の橋も通れるそうよ。

明日には授業も再開するのではないかしら。

早くおさまって本当に良かったわね。」


サラはハッとして、文字の練習していた手を止めました。

ー 橋の下に帰らなければ。


ベスの手を引いて、部屋からこっそり出て言いました。

「ベス、私たち帰らなきゃ。」


もらったぬいぐるみを抱いて、

「どこに?」

きょとんとした顔で、聞き返します。


「橋の下よ!」

「嫌だ、私ここがいい!」

「こんなとこに、いれるわけがないじゃない…。」

「なんで!」

「私たち、親もお金も、家もないのよ!」

「ここを家にすればいいじゃない!」

「バカ!ベスのわからずや!」

抱きかかえたぬいぐるみをベスの手からはたき落として

サラは涙いっぱい浮かべて言いました。


こんなことならあたたかいお湯も

食事もベッドも

おさげさんのような人の温かさも

知らなければ良かった。


その時、おさげさんがずっと廊下で

ふたりの様子を見ていたことに気づきました。


「サラ、ベス。ごめんね。

確かに、ここに置いてあげるわけにはいかない。

明日にはまた普通通りの日々が始まるの。」


ベスはおさげさんに抱きつき、わぁっと泣きます。

サラは唇を噛んで、じっと立ったまま、おさげさんを見つめました。

おさげさんもベスの頭を撫でていましたが、その手が震えていました。


「私、一生懸命考えたわ。」


そう言って、おさげさんは一枚の紙をサラに渡します。


「明日の朝、明るくなる前に、ここを出発しなさい。

この場所なら学校と同じように食事もベッドもあるわ。

もう、橋の下に行かなくていいの。

そして、そこの人にこの封筒を渡して。」


白い封筒を渡すと、あまり時間がないからといって

また部屋に戻り、ルームメイトたちと使い古したカバンに

下着や、少しのお菓子、本などを詰め

明日着ていく服やコートを準備しました。

もう少しいればいいのにと

ルームメイトも別れを惜しみます。


「ねえ、このぬいぐるみ、持っていっていい?」

ベスが小さな声でルームメイトの子に聞きました。


「もちろんよ!もう、あなたのものでしょ?」


ベスはギュッとぬいぐるみとルームメイトの子を

力一杯抱きしめました。

サラはその夜、別れの寂しさで

涙が止まりませんでした。


次の日の朝。


皆が起きる前にそっと校舎を出て、サラはベスの手を引いて

坂を降りて行きました。

橋の袂まで降り、後ろを振り返ると、

坂の上の学校にちょうど朝日が差し掛かって

教会の鐘の音が鳴りました。

今日からまた普通の日が始まるのでしょう。


「またいつかみんなに会えるかな?」

白い息を吐いて、ベスが話しかけました。


「うん。行こう。」


紙に書かれた場所についたのはお昼頃、

街を抜けた郊外の孤児院でした。

歩き疲れてヘトヘトになったふたりを迎えたのは

太った、冷たい態度のおばさんでした。


「何のようだい?」

身なりをジロジロと見ながら、まるで品定めをするようなおばさんに

おさげさんからもらった白い封筒を渡しました。


乱暴に封を切り、中身に目を通すと

サラ、ベスと名前を呼んで、中に連れて行きました。

無愛想に大部屋に通して、

ふん、とまた品定めした後、封筒を持って、

どこかに消えて行きました。


学校と違って冷たい孤児院で与えられたのは

整然と並んだ固いベッドと、小さな棚一つ。

大きな目で黙って見つめてくる年齢も様々な孤児たち。

食事もぬるくなった味気のないスープに、固いパン。


ベスが時折、学校に戻りたいとごねることがあっても

橋の下にいるよりもマシだとわかっていました。

そして、自分たちを助けてくれたおさげさんのように

立派な人になりたいと思うようになりました。

いつかあの、綺麗な表紙の本が読みたい。


「ベス、私たちいっぱい勉強して、本を読めるようになって

ふたりで大きな家に住もう。」

「うん!」


ー そして、多分私は、

しばらくはあの橋の下にも

学校にも行かない。

ここで頑張る。

おさげさんもきっとそれを願っているから。


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おさげさんが渡した白い封筒には

学院長の印がついた手紙が入っていました。

その手紙にはこう書かれていました。


ー 親愛なる孤児院理事長様。


サラとベスは聡明で、とても可愛らしい姉妹です。

ところが不慮の事故で両親を失い、

後見人の不在により、残念ながら、

我が学院に入学を許可することができません。


当学院の生徒の多くの家庭は、

貴院へ支援を惜しまないと聞いております。

ふたりの真摯な態度と努力により、

無事に高等教育へ進学を果たせる頃には、

是非またふたりを当学院へ推薦ください。

それまで慈愛深い貴院にて大切に預かっていただきますよう、

よろしくお願いいたします。


全ての子供に希望を与えうる、

社会的にも意義深い貴院と当学院の活動が

これからもますます発展できますよう。

                          S学院院長 


この手紙は、おさげさんが学院長になりすまして書いたものです。

週末に何度も何度も書き直し、

生徒たちの親が毎年多額の寄付をする

孤児院に目をつけたのでした。


サラもベスもこの手紙を読むことはなかったのだけれども

きっとおさげさんの心は伝わっていることでしょう。


おしまい、おしまい。


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いかがでしたか?


話が意外に長くて、2部に分けてしまいました!

夢のお話、です。

2時間しか寝てないのに、このボリューム何!


おさげさんがやったことが必ずしも正しいとは言えないし

堂々と推奨できるものではないけども

人生の選択ってそういうものが案外多い。

他にも色々と考えさせられることがありましたが

最終的に私の心は温まっていました。

その前に見た夢が激しかっただけに(笑)


皆さんの心の中にはどのように響いたでしょうか?


またこういうお話、書いて行きますね。

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